「人が足りない」
医療現場で働いていると、この言葉を聞くことは珍しくありません。
最近、オンタリオ州では、単に「人手不足」というだけではなく、ナースや医療従事者のポジションそのものが削減されるという状況が起きています。
現実、私の職場でも毎日のように「人が足りない」という状況が続いています。
というのも、私の職場でも40のポジションが削られてしまった事が影響しています。
ナースや介護士のポジションが減ったら、仕事の量はどうなるのでしょうか。
患者さんが減るわけではありません。
病気になる人も、助けを必要とする人も、退院する人も、入院する人もいます。
仕事がなくなるわけではないのです。
では、その仕事を誰がするのでしょうか。

「ナースが減る=仕事も減る」ではない
2026年3月、Ontario Nurses’ Association(ONA)は、2025年1月以降、オンタリオ州の医療現場で700以上のナース・医療従事者のポジションが削減されたと発表しました。削減は病院だけでなく、長期介護施設(日本の特別養護老人ホームに近い施設)、公衆衛生、プライマリーケアなどにも及んでいるとしています。
その後も削減は続いています。
ONAによると、2026年6月時点では、2025年1月以降に削減されたポジションは1,268以上に達しました。さらに9月には、直近2か月だけで215以上のRNポジションが病院で削減されたとしています。
もちろん、「ポジションが削減された」という数字が、そのまま同じ人数のナースが職場から消えたという意味ではありません。空いているポジションを埋めない場合や、職種・勤務体制を変更する場合も含まれます。
それでも、現場で働く人にとって気になるのは、「その分の仕事は誰がするの?」って、思ってしまいます。
参考ウェブサイト:Nurse and Health-care cuts in Ontario
残った人の仕事は、減らない

患者さんが10人から5人になるなら、スタッフが減っても仕事量は減るかもしれません。
でも、スタッフだけが減って、患者さんの数や医療ニーズが変わらなければ、残ったスタッフがその仕事を引き受けることになります。
一人のナースが担当する患者さんが増える。
忙しくて、患者さん一人ひとりと話す時間が短くなる。
記録を書く時間も限られる。
電話、家族からの問い合わせ、医師との連絡、薬の確認、処置、患者さんの状態観察……。
一つひとつは小さな仕事に見えても、全部合わせれば大きな負担になります。
そして医療の仕事では、「忙しい」で終わらないことがあります。
患者さんの小さな変化を見逃さないこと。
転倒を防ぐこと。
薬の間違いを防ぐこと。
急変の兆候を見つけること。
患者さんや家族の不安に耳を傾けること。
これらは、時間と人手があって、初めてできる部分でもあります。
ストレスは「忙しい」だけではない
2026年のOntario nursing workforceに関する調査では、76%のナースが、日々の職場での業務が、以前よりもかなりストレスの多いものになっていると回答しています。
また、77%は、スタッフ不足などの問題によって、患者・利用者・入居者へのケアが悪影響を受けていると回答しています。
これは非常に気になる数字です。
ナースにとって仕事のストレスは、単に「忙しいから疲れる」というものではありません。
「もっと患者さんを見てあげたい」
「本当はもう少し話を聞きたい」
「この患者さんをもっと頻繁に観察したい」
そう思っていても、次の仕事が待っている。
そして、別の患者さんも待っている。
その繰り返しです。
自分が十分なケアをできていないのではないか。
そんな気持ちを抱えながら仕事をすることは、精神的にも大きな負担になります。
参考ウェブサイト:The state of nursing in Ontario
「頑張れば何とかなる」にも限界がある

医療現場では、人が足りないときに働いている人は、、、
少し休憩を短くする。
仕事を急ぐ。
予定していた休憩を後回しにする。
終業時間を過ぎても記録を終わらせる。
また、次のシフトで人が足りないから、Overtime (余分にシフトを働く場合)をする。
「今日は大変だったけど、何とか無事終わった。」
そんな風にその日が過ぎても、翌日、また同じことが起きたりします。
これが一日だけなら頑張れるかもしれませんが、それが何週間、何か月、何年と続いたらどうなるのでしょうか。
ふと、どれだけの期間続くのだろうかと思ったりします。
患者さんにとっても他人事ではない
ナースの労働環境は、ナースだけの問題ではないと思います。
患者さんにとっても関係があります。
ONAは2026年、オンタリオ州の複数の病院でRNポジションの削減が進んでいると報告しています。
9月の発表では、手術室、透析、産後病棟などでもRNポジションの削減例が挙げられています。
一方で、病院側からは、こうした人員配置の変更を異なる形で説明するケースもあります。
つまり、「ポジション削減=必ず患者さんのケアが同じ割合で悪化する」と単純に断定することはできません。
しかし、現場で働く人たちが、
「この人数で本当に安全に仕事ができるのか」
と感じること自体は、無視できない問題だと思います。
参考ウェブサイト:Ontario Hospitals Cut 215 RN Positions, Raising Safety Concerns
ナースは「人数」だけではない
医療の仕事では、単純に「人が一人増えればいい」というわけでもありません。
経験のあるRN、RPN、NP、介護士など、それぞれ役割や教育、資格、判断できる範囲が違います。
特に患者さんの状態が急変したときには、経験と専門的な判断力が必要になります。
だからこそ、「一人減ったから別の誰かを一人入れれば同じ」という単純な話ではないと思います。
必要なのは、必要な場所に、必要な資格と経験を持った人が、必要な人数いることだと思います。
さいごに
ナースや介護士が安心して休憩を取り、患者さんと向き合い、必要なときに助けを求められる職場。
そんな職場は、ナースや介護士のためだけの場所ではありません。
患者さんが安心して医療を受けるためにも必要な環境です。
オンタリオ州では、今後も医療費、病院や長期介護施設の予算、スタッフ配置、待ち時間などについての問題が、これからも続くと思います。
一体いつまで、今の状況が続くのでしょうか?
今後も今の状態のままなら、徐々にナースや介護士という職を去っていく人達も沢山出てくるような気がします。
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。
